読書は立体迷路のようなもの?
もう一つ、並列処理と直列処理の例をあげてみましょう。
数年前から「立体迷路」というものが流行してきて、各地の遊園地、行楽地などに作られるようになりました。
大きなへいや垣根で入り組んだ迷路が作られていて、そのへいや垣根で、これから進んでいこうとしている先の視界が遮断されているので、これにアタックした人は、方向感覚と直感だけを頼りに突破するしかありません。
しかし、この迷路を、設計図で見て、図面の上で入口から出口に向かう場合はどうでしょうか?
図面の上ですと、常に全体を見渡し、出口がどの方向にあるのかを確認することができますから、迷路突破ははるかに簡単になってきます。
実際に立体迷路に取り組んで、平均一時間ぐらいかかるとして、図面の上ではせいぜい五分か、十分ぐらいのものでしょう。
もちろん前者が情報の直列処理で、後者が並列処理です。「読書は、立体迷路のようなものだ」と言ったら、ちょっとオーバーかもしれませんが、私たちは小学校の読書教育以来の習慣で、読書する場合にかぎっては、並列処理を排除して直列処理をするようにさせられています。
簡単に言うと、縦印刷の本では右の行から左の行へ、横印刷の本では上の行から下の行へと読んでいく約束になっているので、その約束に忠実に従って読んでいる、ということです。
暗号文化された本でもないかぎり、「ある行を読んだら、次の行が頁のどこに印刷されているか、捜さなくてはいけない」というような奇怪なことは、考えられません。
次の行く先を捜す、という並列処理が不必要なこととして排除されるのと同時に、速読するためには必要不可欠な並列処理の作業も排除されてしまう、という不都合なことが起きているのです。
遅読の元凶は小学校教育にあり
小学生時代、あなたは初めて教科潟を読む時に、声を出して本を読む、「音読」を教わったでしょう?
あの音読が、実は遅読の元凶で、速読法に必要な情報の並列処理方式を、大脳の中から排除してしまうのです。
音読というのは、ご承知のように、教科書に印刷されている文字を一文字ずつ端から順番に声に出して読んでいく読書方法です。
四つも五つもの文字を、全部まとめて声に出して読む、というような芸当は、どんなに器用な人であっても、絶対にできません。
つまり、典型的な情報の直列処理方式です。
その習慣が体に完全に染みついてしまって、それ以外の読書方法はないように大多数の人は思い込んでいるのですが、人間はほんのちょっとした訓練で、並列処理方式によっても、文字を読むことができるのです。
そして、その訓練方法を一般的な、誰にでも通用する方式として確立したのが、新日本速読研究会のジョイント速読法なのです。
誰でも無意識の内に実行している並列処理
突然ですが、あなたの行きっけの銀行は、何銀行ですか?
第一勧業銀行、富上銀行、三井銀行、三菱銀行、住友銀行、東京銀行、大和銀行、三和銀行、北海道拓殖銀行、協和銀行、太陽神戸銀行、それに、沢山の地方銀行と相互銀行、信託銀行、信用金庫……。
最も支店数が多いので、仮に、あなたの行きつけの取引銀行は第一勧銀だ、ということにしましょう。
あなたは、銀行に行く都度、看板を見るはずですが、いちいちその文字を「第」「一」「勧」「業」「銀」「行」と、端から順番に一文字ずつ確認してから入りますか?
いくら、あなたが生真面目で律儀な性格だとしても、そんなバカげた確認作業は、やらないでしょう。
そんなことをしなくても、あなたは慣れによって、一瞬で看板の全部の文字を読み取ることができるからです。
これが、日常生活の中で無意識の内に実行している並列処理の一つです。
「馬鹿馬鹿しい、そんなことができるのは、当り前じゃないか!」と、あなたは思うでしょうが、それでは、初めての場所に行って第一勧銀の支店を捜す場合には、どうですか?
初めての土地に行って、手持ちのお金が少なくなり、キャッシューカードでお金を引き出さなければ足りなくなりました。
ちょっと、そんな状況を想定してみてください。
最近は、銀行同市で提携が行なわれていますから、他の銀行のCDコーナーを使っても引き出せますが、銀行が違うというだけで、利息はロクな金額を付けないクセに、百円もの手数料を取られるのが、もったいない気がします。
そこで、時間が許せば、足を使って自分の取引銀行の支店を捜す……そんな経験は、きっとあなたにもあるに違いありません。
あなたの捜している取引銀行の支店が、あなたの視界の中にあれば、あなたは一瞬で、その支店の看板を識別するでしょう。
そこが今まで一度も入ったことのない支店だったら、あなたは念のために、看板の文字を上から順冊に、一文字ずつ確認してから入りますか?
よほど神経質な人でしたら、あるいはそうするかもしれません。
しかし、ほとんどの人は、あなたの行きつけの支店と全く同じように、チラリと見ただけで同一の銀行の支店であることを確認して、目的のCDコーナーに入っていくでしょう。
つまり、あなたは、銀行の看板に書かれている全部の文字を並列処理で瞬時に読み取ることに成功したのです。
デザイン文字は右脳の働きを活性化する
こういった並列処理を可能にしているのは、ただ、構成している文字が同じである、ということの他に、文字の形、色彩、デザインなどが統一されているからです。
もちろん、シンボル・マークの存在も見逃せません。
こういった形、色彩、デザインといった要素の分析を担肖しているのは、大脳半球の中でも主として右半分の右脳ですから、右脳が刺激されて活性化され、瞬時の識別の助けをしてくれているわけです。
そこで銀行に限らず、ファミリー・レストランでも、スーパー・マーケットでも、とにかく膨大な支店のネットワークを持つ会社はどこでも、顧客が識別しやすい看板と商標、トレード・マークなどのデザイン化に苦心し、一流のデザイナーに依頼するわけです。
大脳の中の並列処理機構
デザイン化された文字などは、非常に識別しやすい、速読できる文字である、ということはわかりましたが、それでは、全くそのような要素のない、ふつうの本に印刷された文字の場合は、どうでしょうか?
本や新聞、雑誌の中の文字は、見出し文字はともかく、本文に関してはいちいちデザイン化などされてはいません。
たとえば、私たちが皆さんに紹介しようとしている、ジョイント速読法の本に例をとってみましょう。
この本の中には、「ジョイント速読法」「丹田呼吸法」「速読する」といった文字がひんぱんに出てきます。
最も長い「ジョイント速読法」は全部で八文字ですが、この八文字を並列処理して、「ジ」も「法」も同時に読み取ることが、はたして可能でしょうか?
他の七宇が黒い宇で印刷され、「ジョイント速読法」だけが二色刷りの赤い字で印刷されていたら、おそらく誰でも比較的簡単に、そういうことができるでしょう。
しかし、色も書体も変えず、他の文字とまったく同じに印刷されていたら、ジョイント速読法の訓練を受けた人ならば並列処理で一瞬で読み取れるでしょうが、そうでない未訓練の人には、ほとんど不可能だと思われます。
それは、まだ大脳の中に、そのような並列処理の回路が形成されていないためです。
大脳の中の並列処理回路は、看板文字のように、色やデザインが特別の約束に基づいて書かれている「例外」についてしか、作動しません。
並列処理回路は、あるにはあるけれども、末訓練で非常に不完全な状態にある、ということです。
遅読ブレーキの正体は声帯
並列処理回路が作動しない場合、人は声に出さない「黙読」で読んだとしても、音読時代の悲しき習性を引きずっていて、一文字ずつ直列処理で読んでいきます。
しかも、そのスピードが、黙読した場合でも音読した場合でも、ほとんど差がありません。黙読すると、音読よりは多少は速くなりますが、せいぜい一・五倍程度です。
なぜかというと、人も他の動物と同じで、若い時に「しつけ」られた習慣から簡単には抜け出すことができないのです。
そこで、黙読する場合も、音読する場合と同じように、「ついつい」声帯を動かしてしまうのです。
前のほうで、「日本人の平均読書スピードは、一分間に四百文字である」と書きました。
実はこれが、アナウンサーとか、黒柳徹子さんのように、特別に早口の訓練をした人を除いて、ふつうの人が音読するスピードなのです。
そして、黙読する場合も音読する場合と同じように声帯を動かしてしまうために、どうしても声帯の活動するスピードが一種の足かせになって、それ以上にならないわけです。
また、並列処理方式を導人してスピードーアッブをしようとしても、無意識のうちに声帯を動かして、一文字ずつ確認する直列処理万式を作動させてしまっていますから、並列処理することができません。
「そんなこと、信じられない!」
と、あなたが思うのでしたら、黙読している時に自分の声帯がどうなっているか、ちょっと意識をそっちに向けてみてください。
自分のことがよくわからないようでしたら、誰か身近な男性の実験台を見つけて適当な文章を黙読してもらい、その時ののどぼとけの様子を、そっと観察してみてください。
音読している時ほど明瞭ではありませんが、十人中九人までは、微妙にのどぼとけを動かしていることがわかります。
視読が速読法のスタートになる
これで速読するためには、まず第一段階として、スピードーアップできないようにブレーキを掛けている声帯の動きを止めなければならない、ということが理解できましたね?
ジョイント速読法では、声には出さないが、声帯を動かしながら文章を読む黙読と区別して、純粋に視線だけを動かして読む黙読法を、とくに「視読」と呼んでいます。
速読法マスターの第一歩は、黙読の習慣を捨てて視読の習慣に切り替えることです。
しかし、これも、部分的には生活の中で実行しているはずです。
あなたは、外国映両はお好きですか?
外国映画-洋画は、子供向けに吹替えられたものを除いて、画面の右もしくは左の端に、セリフを翻訳した「スーパー」と呼ばれる文章が出てきます。
あなたは、あのスーパーの文章を、どんなふうに読んでいますか?
スーパーの文章は、じっくりと丁寧に読んでいたら、画面の変化についていくことができません。
とにかく、できるだけ速く読んでしまい、画面を見る時間を長くしようとするでしょう。
器用な人でしたら、左の目で画面を観賞して、右の目でスーパーの文章を読む、という並列処理をやるかもしれませんが、まず、ふつうの人でしたら、文字と画面と交互にしか見られないはずです。
あのスーパーの文章を、一分間に四百字という定常のスピードで読んでいくと、読み終わった瞬問に次の文章が出てきてしまいます。
ドリフターズのコントに盛岡名産の「わん子そば」を扱った話があって、そばを食べ終えてわんを伏せようとすると、売り子が素早く、次のそばを椀に投げ入れてしまい、いつまで経ってもやめにすることができない、という筋書きのものがありました。
それと同じようなもので、定常のスピードで洋画のスーパーの文章を読んでいたら、次から次へと新しい文章が出てきて、その人は永久に画面を観賞することができません。
世の中に、時として「私は、どうも洋画が苦手で……」という人がいますが、そういう人は、スーパーの文字を「黙読」してしまうので両面を観賞できる時間が極端に短くなり、じっくり味わっているどころではないから、つまらないのです。
洋画が好きな人は、ふだんの読書では黙読していても、洋両のスーパーの文章に限っては、「速く読んで、画面をじっくり見なくては……」という「心理的圧迫」のおかげで、視読することができているのです。
この原理を導入すれば、あなたは簡単に、初歩的な速読法をマスターすることができます。
本を開いてみてください。
そして、声帯を動かさないようにして本を読んでみるのです。
どうです?
ただ「動かさないようにしよう」と思っても、ついつい今までの習慣で動かしてしまうものでしょう?
そこで、「声帯は、。度にいくつもの言葉を処理することはできない」という直列処理の習性を逆手に取って、利用するのです。
どういうことかというと、声帯が本の文章を「言う」ことができないように、目だけで文章を追って、声帯には他の作業をさせるのです。
たとえば、歌を歌いながら本の文章を読んでみてください。歌詞が気になるようでしたら、何となくハミングするだけでも充分です。
たったこれだけのことで、声帯は並行して二つの活動をすることができませんから、あなたは黙読から視読に切り替えることが可能になります。
視読できれば、あなたは少なくとも、洋画観賞でスーパーの文章を読むのと同じ程度には、速読することができます。
さあ、ちょっと実行してみてください。かなりのスピードで読むことができるでしょう?
一分間に、ざっと八百文字から千文字、というところでしょうか?
これだけで、早くも二倍から二・五倍というスピードになったわけです。
しかし、これを情報の処理方式という観点で考えてみると、どうでしょうか?
確かに声帯という「ブレーキ」を外してスピード・アップはしましたが、文字はやはり、端から順番に一文字ずつ「なぞって」読んでいるわけで、直列処理なわけです。
さらにスピード・アップしようと思ったら、どうしても、もっと処理速度の速い並列処理方式を導人しなければなりません。
それは、次の実践編に入って詳しく説明することにしましょう。
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