ビジネスマンにとって不可欠の日経からの情報
日経というのは、日本で発行されている新聞の中でも、特異性の際立った新聞である。そのことは、ほかの各紙と一面の記事を比較してみるだけでも明確にわかる。
そして、有能なビジネスマン、オピニオンリーダーとなるような経済人、また、その他の職種に就いている人でも、株の取引をやっているなどで経済の動向や先行きに関心の強い人は、大多数が「日経+OO新聞」という購読のしかたをしている。
日経だけ、という購読形態の人は、きわめて例外的で、おそらく0.1パーセントにも満たない少数派であろう。
つまり、日経は扱う情報や記事の切り口が他紙と変わっていて、経済の未来を分析し、占うのに必要な情報にウェイトを置いている、ということができる。
日経を読んでいなければ、時代の潮流を見抜く目や経済界の変化を感知する鋭敏な感覚を磨くことができず、落ちこぼれの(窓際族〉社員ともなりかねない。
ビジネスマンにとっては、(一流〉を志すならば、日経からの情報は必要不可欠であることは疑問の余地がない。
しかし、そういうビジネスマンは、往々にして時間に追いまくられている。ライバルから後れをとらないためには、また、斬新なアイデアや企画などを創案して最先端を走るためには、日経に限らず、膨大な量の情報を収集しなければならない。
時間は限定されている、読んで頭に入れるべき情報は無制限にある、となったら、そのパラドックスをどう解決するか。その有効な一手段が、序章でも触れたように新日本速読研究会が提供するジョイント速読法である。
どのくらいの時間で日経が読めるか?
まず、日経がどのくらいの時間で読めるかを、単純計算してみることにしよう。
日本人の平均読書能力は分速400文字であるが、日経を購読する人は知的水準が高いと考えられるので、おそらく分速600文字から700文字ぐらいのところに、平均値がくるであろう。
しかし.これは軽い小説などを読んだ場合の数値であって、専門的な知識を要求される分野の書籍や文献となると、内容の難しさに比例して、8割から、ものによっては、半分ぐらいにまで落ち込む。
日経は、内容の難しさは専門書に匹敵するので、やはりその程度は読書スピードが落ち込むと考えなくてはならない。
だから、日経を分速400文字ペースで読むことができたら、すぐれた部類であろう。
さて、日経の朝刊がどのくらいの文字数で構成されているかというと、一段が14文字で、一
面が15段(うち3段、あるいは5段が広告欄)、全部で87行で印刷されている。
全面広告などは相当に文字数が減るので(後述するように、日経の場合は広告欄も有力な情報源となるので、これを見逃すことはできない)、その分を割り引いて考えて、20,000文字というところである。
そうすると、日経の全記事を読み通すだけで、タップリ50分は必要、という単純計算が成立する。とてもではないが、たとえ仮に日経だけを読むとしても、これだけの時間は多忙な日常生活の中から確保できたものではない。
そこで、「いかに日経を読みこなすか」といった類の書籍が各方面から出て、読むべき記事と読まなくても差し支えない記事の判別方法、見出しから内容の見当をつける力法、データの整理法などが紹介されているわけである。
しかし、それらの書籍で日経の読み方のノウ(ウを身につけたとしても、やはりこれをわずか5分で読んでしまおうというのは、至難の業である。
10倍の速読能力を身につければ、全記事を読んでも5分
さて、ジョイント速読法の訓練を施して、それまでの10倍の速読能力を身につけ、分速4,000文字で日経の記事が読めるようにすれば、20,000文字から構成されている全記事を読み通したとしても、所要時間は5分である。
新日本速読研究会の教室レッスンで10倍の速読能力を獲得することは、きわめて簡単であるが、本書での独習だと、まあ、3倍から5倍というところが平均値だろうか。
そうすると、日経の全記事を読んで10分から15分であるが、それに(日経の読み方のノウハウをプラスすれば、速読の能力が3倍から5倍程度に留まったとしても、わずか5分で必要な情報を読み取り、頭の中にデータとして蓄えることは、不可能ではない。
そんなことをいわれても、まだ読者の皆さんとしては、そんなに簡単に速読能力が身につくものかどうか、半信半疑に違いない。
そこで、とりあえず読者の皆さんの読斟能力を三倍から五倍程度に引き上げる即席即効の速読訓練を、紙上で試みることにしよう。
キャッチフレーズは、(ワープロを習うよりもやさしい速読術〉である。
ワープロを習うよりもやさしい即席即効の速読術
それでは、手元にストップウォッチを用意するか、あるいはだれか第三者に立ち会ってもらって、次から始まっている訓練文を最後まで読み通し、読破に要した時間を計測していただきたい。訓練文は上下に■のマークがついているが、これは気にせず、間に挟まっている文章を読むようにする(一の意味については、後で改めて説明する)。
訓練文として引用させていただいたのは「日本経済新聞の読み方」(日下公人著・ごま書房)の一文である(読みやすさのために、句読点、行替えなどを変更させていただいた)。
※訓練は省略
さあ、どうだっただろうか?
これまで速読法の訓練をしたことがない人だと、ごく平均的な読書能力を持っている人で6分、読書好きの方で4分、というあたりの数値に落ち着く(つまり、4分から6分の間に読書能力の正規分布曲線の山がくる)はずである。
この数値よりも長くかかった人は日本人の平均よりも遅いことになるし、短かった人は速いことになる。
速くても遅くても、まあ(五十歩百歩〉の範囲に留まっているわけで、これを短時間で3倍から5倍程度の読書能力に引き上げる訓練を、これからご紹介する。
ちょっと知的水準の高い人には心理的に受け入れ難い、バカバカしい訓練で、ほとんど気づくことがないから、〈コロンブスの卵〉的な訓練だということができる。
上下二点以外読まず訓練
それでは、ここでまた、訓練文の冒頭に戻り、今度は文章を読まず、上下に目印としてつけた一だけをみて、上下上下と視線を動かし、できるだけ素早く次の行に進む、という、無意味としか思えない訓練をやっていただく。
上下についた目印の一以外はみない、中身の文章は読まないわけであるから(上下二点以外読まず訓練〉である。
制限時間は、10秒間。
だれか知人がそばにいれば、その人に10秒を計測してもらい、だれもいなければNTTの時報サービスを利用するなどの方法で、正確に10秒で止めてほしい。
そして、10秒間でどこまでいけたか、行数を勘定していただきたい。
潜在能力の壁を破る
さあ、どうだっただろうか?与えられた10秒間で、あなたは何行目までいくことができただろうか?
次に、一応の目安となる数字を書くことにする。
① 10行以下 ……あなたは、指示をまったく守っていない。■との間の文章は、みない、読まないように、と注意されていながら、つい文字に引きずられて、読んでしまっている。
② 10行~20行……あなたは、意識としては指示を守ろうとしながら、潜在意識に文章を読みたい欲求が残っていて、気づかないうちに読んでしまっている。
③ 20~30行……あなたは忠実に指示を守った。しかし、正確に行をたどる、ということに過剰に意識をさきすぎている。
④ 30~40行……あなたは、完全に指示に従ったが、ただし、やや目の筋肉(眼筋)が運動不足気味で、ペースをそれほど上げることができなかった。
⑤ 40行以上 ……あなたの残した成果は立派なもので、初級程度の速読法の修得は、もう目前である。
要するに、この《上下二点以外読まず訓練》では、制限時間の10秒で4ページ目に入るか、遅くとも3ページ日の後半までいっていなければならない、ということである。
しかし、大多数の読者の皆さんは、そうはいかなかっただろうと思う。先入観に惑わされて、潜在能力の壁を破ることができなかったのである。それではここで、改めて潜在能力の壁を破るのにチャレンジしてみよう。
上下、上下と素早く目印の一をみていくのに、多少の狂いが出てもかまわない、《拙速》をモットーのスピード追求の訓練と考えて、④以外だった人は、ここでこの非知的な訓練に再チャレンジしていただく。
ただし、注意しておくと、初めてこの訓練をやる人は、引き続いて3度も4度も繰り返してはい
けない。
これは、相当に眼筋に負担をかける運動なので、やりすぎると、運動不足の新入生が、運動部に入部し、先輩連からいきなり猛シゴキの特訓を受けたのと同じようなことになって、しばらく時間が経過した翌日などに、目に疲労性の痛みが走ることがある。
痛みが出るのは直後ではないので、くれぐれもご用心いただきたい。
まず、訓練開始初日は、反復練習は2回程度までに留めてほしい。
即席即効の速読法の実証
さて、この無意味と思える訓練をやったら、今度は改めて訓練文を最初から最後まで、訓練開始前と同じ調子で読んで、読み終えるまでの所要時間を測定していただく。
さあ、どうだっただろうか?10人中9人までは、意外な現象に遭遇して狐につままれたyような思いをすることになる。
3分で読み終えた人あり、2分で読み終えた人あり、1分で読み終えた人あり、個人差もあって、バラバラだと思うが、ともかくこれだけの単純なバカバカしいとしか思えない訓練で、読書能力は飛躍的に向上する。まったく向上しない人は、前述の訓練で①と②に該当する数字しか残せなかった人の中から出る。
そういう人も、何日か目を素早く動かす訓練を続けて④か⑤の数字を残せるようになれば、まず間違いなく初速の数倍の速読能力を獲得できる。
筆者の教えた中には、この単純至極な訓練だけで読書能力が分速600文字から分速6,000文字にまで向上した例があるので、だれでもそこまで向上すると保証するわけではないが、だまされたと思って取り組んでみてほしい。
理解力を落とさない速読法
ちょっとここで念を押しておくと、速読法の訓練だからというので気張って無理に速く読むようなことをしてはいけない。
理解力を落として読んだのでは、それ以前の読み方と比較対照することができないから、正確な上達度を知ることができない。逆にいえば、理解力を落とさずに読むということは、それまでとまったく変わらない読み方で読む、同じスピードで読んでいるつもりで読む、ということである。
本人は、いつもと同じように読んでいるつもりだから。驚きが起きない。
「速く読んだ」といわれても、時計が狂ったのではないか、測定している人間が、自分をかついでいるのではないか、という気持ちになるから、(狐につままれた〉と書いたわけである。
「いや、速く読めたのは、先刻も読んだ文章で、もう内容がわかっていたからだ」と反論される方があるが、実は速読法の根本原理は、そこにあるのだ、と申し上げたい。
しかし、その説明は非常に厄介で入り組んでいるので、ここでは後回しにし、もう一度10秒ばかり〈上下二点以外読まず訓練)をしてから、まだ読んだことのない軽い小説もしくはビジネス新書の類を開き、一ページを読んでから、あるいは、見開きのこページを読んでから、読破に要した時間を測定していただきたい。
1ページ1分が健康な成人の平均値であるが、おそらく1ページあたり30秒か、それ以下で
読んでいるはずだ。
即席速読法の原理
この原理を理解しやすいように、たとえで説明すると、あなたが一般道路で約60キロのスピードで走行していて、高速道路に上がって120キロ前後でしばらく走行し、また下の一般道路に降りた、という状況を想定していただきたい。
その際、「メーターをみないで、周囲の景色だけをみて60キロで走ってくれ」と注文された
ら、どうなるだろうか?
よほど運転に慣れた人は別にして、大多数の人は、60キロに落としたつもりで、80キロ程
度にしか落とさない。
横から「落ちていない」といわれて、60キロに落とすと、実感としては、50キロか40キ口程度にまで落としすぎたように感じる。
こういったスピードに対する錯覚を、非常にたくさんの人が経験していると思うが、人間は高
速のものを見続けると、その動きに順応するように潜在能力が活性化され、完全に元に戻した時には落としすぎたと感じ、それよりもやや上のレベルを、自分にとってちょうどよいと感じるのである。
これは、陸上競技の練習などでも取り入れられており、たとえば100メートル11秒の壁をどうしても破れない選手を、オートバイの後ろにゴムロープでくくりつけて、10.5秒ぐらいのスピードで走らせる。
そうすると、身体が10.5秒というベースを覚える。 そこで今度はロープを外して訓練させると、強制力がなくなったので徐々に元に戻っていくが、完全に元のレベルにまで落ちることはなく、やがて10.8秒とか、10.9秒で走れるようになって、11秒の壁を破ることができる。
陸上競技の場合だと、筋力をつけたりしなければならないので、(いうはやすく、行うは難し)で一朝一夕にはいかないが、速読の場合は非常に簡単である。
前述の(上下二点以外読まず訓練)だと、上下の目印の2点だけをみて、中間の文章を読まないわけであるが、読まないといっても中間に挟まっている以上は、どうしても視野には入る。
その間に高スピードに対する順応現象が起き、高速道路から一般道路に降りた時と同様、元のスピードに戻した(ちゃんと理解しながら読む)つもりで、実際には以前よりも速く読んでしまう、ということになる。
だから、高速道路に上がっても一般道路と大差のないスピードで走った人〈上下二点以外読まず訓練〉で①と②に該当した人)は、高スピードに対する順応現象が起きないので、即席即効の速読能力を獲得することができない。
あなたは異常に遅く読みすぎている!
自動車の走行の場合には、確かに高スピードに対する順応現象は即座に起きるが、もう一つの例として挙げた陸上短距離選手の場合は、一朝一夕にタイムが短縮されるわけではない。
そこで速読法の場合にも、いうほど簡単にはいかないはずだ、と考える人は多いに違いない。
ところが、あなたは読書の場合に限って。異常に遅い目の使い方をしてきたのである。その実証のために、こういうことをやっていただきたい。
これまでどおりの本の読み方をした後、紙面から目を離して周囲を見回す時に、活字を追っていたのとまったく同じスピードで視線を動かしてみるのである。
そうすると、あまりの遅さにいらいらしてきて、すぐにもっと速く動かさないではいられなくなるはずだ。
あなた方は読書する場合に限って異常に遅い目の使い方をしてきたのだが、長い間それが正常であると習慣によって思い込まされてきたので、その異常さに気づかなかっただけの話である。
序章でも少し話したが、あなたが今、本書を部屋の中で読んでいると仮定しよう。
よほど広い部屋だったとしても、せいぜい五秒か、十秒もあれば、部屋の外に出られるはずである。
そこで、「できるだけゆっくり歩いて、5分かけて部屋の外に出るようにしてください」と注文をつけたら、どうだろうか?
部屋の中をネズミ花火のようにグルグル走り回ってから出るのならばともかく、一直線にドアに向かって5分で出るというのは、これは実行してみるまでもなく、考えただけで非常な苦痛であることがわかる。
実は、読者の皆さんのこれまでの読み方は、持てる能力を、(習慣〉という条件反射によって異常に押し殺した、わずか5秒で出られる部屋を5分かけて出るようなものだったのである。
持てる能力を、条件反射のカセを外してしまい、もっとも自然な状態で発揮させようというのがジョイント速読法の訓練であるから、即席即効で修得できるわけである。
また、速読法を修得すると、速く読むことによって強いストレスが襲ってくる、という先入観を
持っている人が多いが、前記の例で理解していただけたと思うが、5秒で出られる部屋を5秒で出るようにするわけであるから、かえって読むことに伴うストレスは大幅に軽減される。
視力の低下も目の〈異常鈍足〉が原因だった!
5秒で出られる部屋を5分かけて出たら、非常に疲れて体力を消耗する。
それでは、毎日そういう訓練をしていたら、筋竹たくましい身体に鍛え上げられるかというと
まったくその逆で、いよいよ筋肉はやせ衰えていくだろう。
読書も同様で、そういう目の使い方をしていたわけであるから、視力に非常な悪影響を及ぼす。
その理論的根拠については「視力復活眼筋トレーニング」(青春出版社)「視力復活!超速読術」(日本文芸社)等で詳述したので本書では割愛させていただくが。〈上下二点以外読まず訓練〉で①と②に該当した方は、まず99パーセントの確率で眼鏡かコンタクトが手放せない視力のはずである。
理科の図鑑などには眼球の解剖図が出ているが、眼球には、目を上下左右に動かしたり回転させたりするために、6本の眼筋がついている。
この眼筋が、読むのが遅いと、日常生活でまったく走らない人の足の筋肉が衰えていくのと同じで、どんどんやせ衰えていく。
そうすると、筋肉というのは生きたバネのようなものであるから、やせたことによって引っ張りの力が弱くなる。
そして眼球は、前後の引っ張りの圧力が弱くなるので直径が伸び、奥行きが深くなってしまう。
これが、私どもが考えている真性近視の原因である。だから、速読すると目に大きな負担がかかるので疲れるだろうと考えている人が多いが、これも逆で、速読すればするほど目の負担が小さくなって疲労しにくくなる。
このように、一石二鳥どころか、一石三鳥にも、四鳥にもなるのが、ジョイント速読法なので
ある。
眼筋トレーニングの目安
次のページに、◆と◆の間を実線で結んだ模様が描かれている。
この線を、できるだけ素早く視線で追う、というトレーニングを10秒間、読者の皆さんにやっ
ていただきたい。
ページの最後までいったら、最初まで戻って同じことを繰り返す。
目標は、3ラウンドが完了する(つまり、45行目までいく)ことである。
これは陸上の100メートルの全力疾走にたとえられる訓練で、あなたの眼筋が正常ならば後半になるほど加速するが、運動不足で衰えていると、途中でバテてきて失速する。
中には、10秒の半分どころか、3秒と持たずに失速し始める人がいる。そういう人は、制限時間を半分の5秒に設定してやってみてほしい。
立て続けにやると、オーバーワークで目がおかしくなるので、次は本を横にしてやってみる。
縦横と斜めと、だいたい〈米〉の字の四方向でやって、どの方向も同じ回数ができれば、あなたの眼筋はバランスがとれている。
もし、速くできる方向とできない方向、というバラツキがあるようだと、あなたの眼筋はバランスが狂っていて、要するに眼球についているバネに、引っ張りの力の強い部分と弱い部分がある、ということで、すでに乱視があるか、今はまだ検査で乱視が検出されなくても、遠からず乱視になる危険性が大である。
たとえば縦横で、縦方向は45回できたが横方向は30回しかできなかった、というような人は、64の割合で横方向にウェイトを置いた訓練をして、同じ回数ができるように持っていく、ということである。
このトレーニングで(上下二点以外読まず訓練〉も、かなりの数字が残せるようになって、速読能力は相当に向上する。
しかし、何度も注意することであるが、このトレーニングを連続して何十回もやってはいけない。100メートルの反復ダッシュを何度もやるのと同じで、やりすぎれば筋肉がつくどころか、肉離れを起こして引っくり返るだけである。
人間は自分の能力を上回ったことは実行できない
さて、このトレーニングの理由と目的であるが、仮に10秒問の制限時間でコンスタントに40行目までいけ、そこに文字が印刷されていて、内容がキチンと理解できたとすると、普通の文庫本や新書で、おおよそ分速10,000文字、というペースである。
たとえば、100メートルを全力疾走して、11秒で走れる人もいれば、鈍足でどうしても18秒かかる人もいる。
そういう2人に、「100メートルを15秒ペースで走って、周囲の景色や人を、観察するようにしてください」という注文を出したら、どうだろうか?
11秒で走れる人にとっては、それほど難しい注文ではないが、全力疾走でも18秒を要する人にとっては、最初から無理な注文である。
それと同様で、読まずにただ視線を走らせるだけで10秒間で40行目までいきつけない人は、分速10,000文字ペースで読んで内容を理解することは不可能である。
しかし、45行目までいきつける人だったら、分速10,000文字ベースは、かなり能力を下回ったペースであるから、読んで内容を理解することは、さしたる困難ではない。
この、ただ視線を走らせるペースと、内容を理解できるベースの比率であるが、多少の個人差はあるが、だいたい半分のスピードだと。大多数の人が無理なく理解できるようである。
そうすると、10杪間で40行目までいきつける人だと、分速5,000文字のペースで読んで内容をキチンと把握できる、ということになる。これは、日経の全記事を、飛ばし読みも斜め読みもせず、完全に読み切って5分以内に読み終えられる、という速読能力である。
これは、ごくごく初歩の速読のテクニックで、ジョイント速読法でも〈さわり〉の部分にすぎ
ないが、ジョギングの距離を少しずつ延ばしていくような感じで、焦らず地道に訓練に取り組んでいれば、10秒間で40行目までをクリアするのは、それほど大変なことではない。
本書を読んだその日からぜひ実行して、真偽のほどを身をもって体験していただきたい。
読書にもウォーミングアップが必要!
これから長い距離を走ろうというのに、ウォーミングアップもなにもせずに、いきなり走り出す人はいない。身体を温めてからでなくては、スピードは出ないし、それでも無理をして走れば肉離れを起こす危険性がある。
テレビの駅伝の中継などで、タスキを待つ選手が黙々と走り込んでいる姿をみたことがある人は多いはずだ。
走れば走るほど体内に蓄えていたエネルギーは失われるわけだが、たとえエネルギーをロスしても、そのほうがタスキを受けてからのスピードが上がることを、だれもが経験的に知っているのである。
また、陸上競技ならば生命の危険はあまりないが、水泳でウォーミングアップをせずに水に飛び込んだら、心臓マヒを起こしてあの世に直行する危険性がある。
このように、運動ではウォーミングアップをしてから取り組むのが常識になっているが、知的活動である読書に関しては、ウォーミングアップしてから本を読み始める、という人の話は聞いたことがない。
それは、「ウォーミングアップしようがしまいが、読書スピードに変わりなど、あるはずがない」という先入観を、だれもが等しく持っているからである。
ところが、世界を一周して確かめることもせずに、先入観から「地球は平面である!」と断言していたコロンブス以前の人々と同じく、これが先入観のもたらす大きな落とし穴なのである。
事実は、〈上下二点以外読まず訓練〉をウォーミングアップとして読書開始前に10数秒、実行するだけで、読書能力は格段に飛躍する現象が起きる。
1.5倍程度に留まる人もいるが、2倍、3倍になる人はザラだし、中には一気に5倍、10倍にまでなる人も、出ないわけではない。これだけで、初歩の速読法としては十分な数値だろう。
「読書もスポーツなり」の発想で初歩の速読法はマスターできる
さて、1.5倍で留まるか、10倍にまで伸びるか。この個人差は、頭のでき不できにではなく、先ほどの訓練で、10秒問の制限時間で視線を何往復させられるか、主として眼筋のスタミナに関係してくる。
これは、一般道路から高速道路に上がって、また一般道路に降りる例を思い返していただきたいが、60キロから120キロに上げて落とした時には、メーターをみなければ、60キロに落としたつもりで、80キロ程度に落ち着く。
しかし、高速道路に上がっても慎重派で、80キロ程度までしか上げなかった人は、下に降りれば当然、元に戻ってしまうだろう。
逆に200キロまで上げた人は、60キロに落としたつもりで、まだ100キロを出している、ということにもなりかねない。
要するに、スピードの上げ幅に比例して、順応力の大小も左右されるのである。
速くなったと自覚できないのが真の速読法
さて、一般道路から高速道路に上がって一般道路に降りた時に、運転者は元どおりにしたつもりで自然に速くなっているわけだから、まったくその自覚がない、メーターをみなければ元に戻っていないことを自覚できない、と述べた。
繰り返して書くが、速読法の訓練をすると、つい速読だからというので、意識的に速く読んでしまう人が多いが、それでは理解力が落ちてしまう。
訓練時には、意識的に理解力を落とした訓練、まるで理解できないスピードでみる訓練をする必要があるが、理解しなければならない本や新聞を読む時には完全に速読法のことを頭から振り払い、あくまでもくこれまでどおりに読むことである。
それでも、前述の訓練をウォーミングアップとして取り入れてから読めば、それだけで単純に、速度は数倍にもなっている。
本人は格別に意識して速く読まなくても、ウォーミングアップした時としない時とで、同じスピードで読んでいる感覚で段違いのスピード差が生じるのだ。
だから、時計を使って計測しなければ読書能力が向上していることに気づかず、それでつい、このようなウォーミングアップは無意味と感じて行わない。だが、この訓練を読書前に欠かさず実行することを習慣づければ、その訓練で、失った時間の数倍の時間を、結果的に得することができる。駅伝の選手がエネルギーをロスしても事前の走り込みでスピードを上げ、タイムを得することができるのと同じ理屈である。
読書の前に限らず、途中でも章や段落の切れ目など、ちょうど区切りのいい箇所にくるつど、あるいはちょっと退屈して気分転換したい時などに、ここで述べた訓練を実行するだけで、初歩の速読法は完全に身についてしまい、やがては遅く読もうと思っても、読むことができなくなってしまう。
速読法を身につければ世界が変わるのではないか、と期待している人が多いが、天動説が否定されて地球が丸いことが証明されても、依然として日常生活では太陽が東から昇って西に沈むようにみえるのと同様、まったくなにも変化がなくて〈拍子抜け〉するほどである。
しかし、だからこそ、読んだ文章内容の理解力、把握力が以前と比較して変わらないので、速読法の真価が存在する。速さを自覚できるようでは、どこかで無理をしているからその速さを自覚できるわけで、必ず破綻がくる。
本書を読まれた今日からは「読書もスポーツなり!」と発想を一大転換して、必ず読書前に、あるいは新聞を広げる前に、ウォーミングアップする習慣を取り入れていただきたい。
それでは。いよいよ章を改め、速読法を使った日経新聞の具体的な読み方に踏み込んでいくことにしよう。
→ 続き 「第二章 情報エリートへの道‐日経新聞はこうして活用する‐」はこちら
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