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第四章 速読実践トレーニング

ダイヤモンド記事

ページめくりトレーニング

ここで、ちょっと横道にそれるようですが、頁めくりトレーニングをやってみましょう。

何か、縦書きに印刷された本を用意し、右手で軽く背表紙を支え、左手の親指の腹でページの紙を「しごく」ようにしてページをめくる、ということをやってみてください。

 

参考書は横書きで印刷されたものが大部分で、そういうものは右手の親指の腹で紙をしごいてめくることになりますが、頑固な左利きの人でない限り、右手は普段から細かい作業に慣れていますから、ほとんどトレーニングは必要ではありません。

頑固な、と書いたのは、私たちの社会は右利きに都合よくできているために、大抵の左利きの人は「両刀使い」になっているからです。

まず利き腕でないほうの指先で訓練

さて、利き腕でない慣れないほうの指先で頁をめくりますと、利き腕に比べて指先の感覚が鈍いので、上手に一頁ずつめくることができず、二頁とか三頁を、いっぺんにめくってしまう場合が出てきます。

 

これもまた当り前の話、飛ばしてしまった頁の内容は、超能力者でもない限り読み取ることは不可能ですから、訓練をして、左右どちらの指で頁をめくっても、迅速、かつ確実に一頁ずつめくれるようにしなければなりません。

三百頁程度の本でしたら、三十秒以内に全頁をめくってしまうことが第一段階の目標です。

 

毎日、五分か十分の短時間で結構ですから、あるいは馬鹿馬鹿しいと思うかも知れませんが、必ず欠かさず、この頁めくりトレーニングをやるように心がけてください。

その際、視点を漠然と中央の頁の綴じ部分に置いて、印刷された文字が視野に飛び込んでくるのに任せ、自然体で眺めるようにするのです。

慣れで見えてくる文字群

もちろん、数百頁の本を三十秒以内という猛ペースですから、最初はとうてい内容の把握など、できたものではありません。

ところが、慣れというのは恐ろしいもので、最初は全く見えなかった文字群が、このトレーニングを続けている内に、次第に見えるようになってきます。

 

高速道路に上がったばかりの運転者が、最初は猛スピードに慣れないで、周囲の風景が飛ぶように後方に遠ざかっていくように感じるのが、次第に慣れてきて、風景の細かい部分が識別できるようになっていくのと同様の現象なわけです。

しかし、文字群が見えるようになっても、印刷されている内容を把握する、ということになると、ほとんどできないはずです。

 

前途に巨大なクレバスが広がっているようなもので、見えるということと理解できるということの間には、依然として大きなギャップがあるのです。

そのギャップのために、このトレーニングは理性的な人ほど馬鹿馬鹿しく感じられ、ついつい怠けてしまうのですが、右脳が鍛えられてくると、見えるということは即ち、情報として記憶回路に刻み込むことができる、ということになるのです。

 

つまり、三百頁の本を三十秒以内でめくることができるということは、いずれは三十秒以内で読破できるようになる、ということですから、希望を持って、あるいは騙されたと思ってでも結構ですから、この頁めくりトレーニングを生活の中に取り入れてください。

川村式ジョイント速読法のコンピューター・ソフトを購入された方は、ソフトの中にも頁めくりのトレーニングが組み込まれていますから、その指示に従って頁めくりの訓練を行なってください。

頁めくりトレーニングは右脳鍛練も兼ねる

ところで実は、印刷されている文字を見る見ないに関係なく、この頁めくりのトレーニング自体、右脳の鍛錬になっているのです。

それは、最初のほうでも述べましたが、人間の神経は大脳に入る段階でX字状に交差していて、左手の行動は反対側の右脳が支配しています。

 

そこでこのように慣れない左手を動かすということによって、右脳も鍛えられるのです。

そんなことがあるわけない、と思う人もいるでしょうが、人間は、ある問題を出されて筆記で答える時に、右手で回答する場合と左手で回答する場合で異なる答えを書いたとか、右手では回答できなかったのに左手では回答できた、というようなことが起こるのです。

 

それは、左手が右脳に直結しているため、その問題に対する回答が右脳の記憶回路の中にあると、左手を使用することによって右脳の記憶回路が起動してきて、回答を出すのです。

その理由ですが、これまでに繰り返し述べてきたように、強く意識する記憶は主として左脳にしまい込まれ、右脳に記憶されるのは意識と無意識との境界線上のような感覚で記憶される情報が大半です。

 

そのために実際に左手を動かして筆記してみるまで、明確に記憶しているにもかかわらず、そのことに気がつかない、という珍妙な現象も起きるわけです。

左右脳を勉強に活用

君は、例えば英語でスペルを問われる問題に出会って、記憶が曖昧で、正しい綴りがどれか全く確信が持てなかったのが、実際に紙に書いてみたらわかった、というような経験がありませんか?

 

それは、形状の認識と記憶を司る右脳が、その単語のスペルを形として無意識に記憶していた、しかし、意識的に記憶する左脳の記憶は薄れてしまっていて、実際に書いてみることによって右脳の記憶回路が起動してきた、ということなのです。

その時、右手ではなく、左手で書いてみたら、もっと迅速に右脳の記憶回路を起動させることができて、自信を持って回答することができたでしょう。

 

受験勉強をしていて頭が疲れてきたと感じたら、それは主として左脳の疲労なわけですから、筆記用具を左手に持ち変えてノートをとってみる、ということが、大脳の作業領域を左脳から右脳に変更することで、非常に良い気分転換になります。

また、実際に試験を受ける際に、左脳が忘れていることを右脳の記憶回路から引き出す準備運動にもなりますから、ほんの短時間で結構ですから、左手筆記もぜひ受験勉強の中に取り入れて、やってみてください。

 

よく「左利きの人は右利きの人よりも頭が良い」とか「左利きの人は右利きの人よりも独創性に優れている」と言われるのは、右利き優先社会で左右両刀使いを強制されるために、必然的に右利きの人よりも左右の脳を平均して使う機会が増えるからです。

ですから正確には、「左利きの人は右利きの人よりも頭が良い」のではなく、「左利きの人は右利きの人よりも大脳を活用している」ということです。

 

こうして理屈がわかったのですから、大いに左右脳を勉強に活用してください。

右脳活用による受験勉強法

いささかまた、話が脱線してしまいましたので、元に戻って受験勉強における速読法の活用法について述べることにしましょう。

さて、大学の受験参考書というのは、国語関係を除くと、大部分が横書きで、左から始まるように印刷されています。

 

この形式の本は、速読するということになると、右手の親指で頁をめくることになるわけですから、早めくりは即日、やれるようになりますが、前節で述べたような理由で、全く右脳の鍛錬にはなりません。

それはまあ、仕方がないとして、受験参考書の大部分は速読法に不向きなように内容が構成されています。

 

絶対に速読できないわけではありませんが、本当に大学の受験に速読法を活用しようということになったら、根本的に参考書の構成を作り変えて、オリジナルのものにする必要が出てきます。

 

最初は手間が掛かりますが、いったん身につけてしまえば、非常に有効な勉強方法になりますから、ここで、右脳を活用した速読法受験勉強術について教えることにしましょう。

受験参考書の速読法

まず、受験参考書のいったいどういう点が速読法に不向きなのかと言いますと、たいていの参考書は、いくつかの章に分けられ、その章の最初で教科書の復習のような感じの解説が行なわれます。

それから、章の内容に関連のある典型的な例題が出てきて、模範解答と解説が提示されます。

 

ここまでは、全く問題なく速読することができます。それから、基本的な練習問題、やや高度な練習問題、他の章の内容とも関連のあったりする非常に高度な実戦問題と進みます。

 

実際の入学試験ということになると、受験する大学によって出題傾向に多少の差はありますが、典型的な例題をこなしただけで解けるような素直で平易な問題が出てくることは、まず絶対と言っても良いくらい、ありません。

どうしても、やや高度、あるいは非常に高度な実戦問題を解いて、難解な問題に慣れておく必要があるわけです。

問題と解答をくっつける

ところが、それらの問題に対する解答は、問題のすぐ後には印刷されておらず、巻末にまとて印刷されている、あるいは別綴じになっている、というのが通常です。

 

これが、速読法で受験勉強するには、非常にやりづらいのです。それと言うのも、これまで述べてきたように、速読法は内容を把握することを強く意識して本を読み進むのではなく、意識と無意識との境界線上に自我を置く、といった状態で読み進むからです。

 

もちろん、速読法に本当に上達すれば、離れ離れの場所に印刷されたことでも頭の中でジョイントさせて理解することができますが、誰でもそこまで速読法に上達するとは限りません。

速読法の初歩を身につけただけの人にとっては、離れ離れの場所に印刷された内容はチンプンカンプンで、ジョイントさせて一つのものに構成することができないのです。

 

そこで、解答が最後に付けられている問題は、解答を切り取ってきて、問題のすぐ下にくっつけてしまいます。これで、速読法で受験参考書を読むことが可能になります。

試験問題は二百から三百パターン

「解答が問題のすぐ下にあったら、ついついそっちを見てしまって、ちっとも勉強にならない、実力が付かないじゃないか」と言う人、不安に感じる人も、あるいは、いるかもしれません。

 

そこで、「いや、絶対にそんなことはない」 と、まず最初に申し上げておきます。

その理由ですが、私のこれまでの経験では、科目によって多少の差はありますが、入学試験に出題される問題というのは、内容や形式がほぽパターン化されていまして。せいぜい二百パターンから三百パターンぐらいの中に収まってしまうのです。

 

いくら主題者が知恵を絞ってオリジナリティのある問題を出そうと工夫しても、この決められたパターンから大幅に逸脱することは、できない相談なのです。

ここに、右脳活用速読法受験突破術のキーポイントが存在しているのです。

オリジナルで参考書を作成しよう!

そこで、右脳活用速読法の受験突破術に基づいたオリジナルの受験参考書の作成方法を伝授しましょう。

旺文社の「入試問題正解」を筆頭にして、各出版社が競争のように全国の大学の入試問題とその正解を出版しています。

ちょっと金額がかさみますが、浪人した場合の心理的プレッシャーと一年間の生活費には替えられませんから、まずこれらを買い集めます。

 

近所に古書店のある人は、そういう店を回って古い入試問題を集めるのも価値があります。

それと言うのも、先刻も述べたように入試問題はパターン化されており、そのパターンの中からしか問題が出てこないために、年度は古くても内容はほとんど古くなっていないからです。

 

そして、二百なら二百、三百なら三百のパターンの中に、集めた問題を全部、切り取って分類してしまいます。

この場合のパターン分けは、入試問題の正解集には、必ず『内容別問題一覧』というような索引がありますから、まずそれを参考にして、ラフに分類していきます。

 

これで分類できるパターンは五十ないし百でしょうから、今度は自分の判断で、更にそれを細分化していきます。

そして、例えば二百の各パターンに平均十題ずつ問題を分類したとしますと、全部で二千題の入試問題が分類されたことになります。

 

ここまで徹底せずとも、五百題程度でも入試対策としては充分ですが、二千題もピックアップすれば、全部の入試問題は絶対にその中のどれかに類似していることになりますから、完璧です。

速読流参考書の作成

さて、問題を切って解答と合わせてノートに貼ったとしますと、切貼りだらけのために、ゴワゴワで非常に扱いづらいものになってしまうと思います。

 

まず、速読したくとも、スムーズにめくることができません。そこで次は、貼り終えたノートをコピーに取ります。

 

ですから、切貼りした問題と解答を貼りつけるのは、コピーし易いように最初からバラバラになっているルーズリーフ式のノートにするか、簡単に切り離せる便箋、スケッチブックのようなものを使用すると良いでしょう。

 

最近はセプンーイレブンのようなところで、セルフーサービスの安価なコピーが普及していますから、その際、できれば拡大コピーを利用して、一回り大きい文字サイズに変えてください。

それと言うのも、文字サイズが大きいほうが、速読し易いからです。

 

そして、参考書のように左扉頁から始まるのではなく、右扉頁から始まるように順序を並べ変えて、両面コピーします。

その次は、製本です。近所に製本屋さんがあれば、製本してもらうと、素晴らしい自家製の参考書ができます。

 

製本屋さんがなくても、文具店で製本道具を求めてくるか、それもなければ、頁がキチッと揃うように充分に注意しながら大型のホッチキスで綴じ、背表紙をカラーのビニールテープかガムテープで貼って、頁がバラけないようにすれば、完成です。

入試対策の九十パーセントは完了

さて、元々が左扉頁から始まっている参考書や入試問題正解集を切貼りして、右扉頁から始まるように作り変えてしまったわけですから、各頁は、左から右に横書きに印刷されているのに、文章の全体的な流れとしては右頁から左頁に進んでいく、という不自然なことになります。

 

最初は読みづらいでしょうが、この不自然さに慣れるまでに、それほど時間は必要としないはずです。

では、この自家製参考書で、川村式ジョイント速読法のトレーニングを行なってみましょう。

右手で背表紙を軽く支え、左手の親指の腹でしごくようにして、頁をめくっていきます。

 

過去の入試問題と、それに対する解答とが組み合わさって、次々と君の視野に飛び込んで来ます。

この組み合せを、右脳の記憶回路に刻みつけてしまえば、君の入試対策は九十パーセントまで完了です。

入試問題は条件反射で解く

こう述べてきますと、これまでの入試問題に対する考え方からしますと、君はかなり不安になると思います。

「そんなんで、いいんだろうか? それじゃ、問題を熟考して答えを出すという過程が全く人つていないじゃないか……」と感じる人も多いでしょう。

ですが、ここで忘れていけないのは、入学試験というものは、満点を取る必要などはなく、合格点を取れば良いのだ、ということです。

 

そうしますと、こういう問題が出てきたらこういう答えを書けば良い、というパターンを覚えておき、そのとおりに解答するだけで、九十九パーセントの大学では合格点が取れてしまうのです。ちょっとここで、君の小学生時代のことを思い返してみてください。

 

掛け算の九九というのを習ったでしょう?二二が四、三三が九、四四が十六、五五が二十五、六六が三十六……といった調子で、お経のように覚えていきます。

 

これは、縦方向の数を数え、横方向の数を数え、その二つを掛け合わせた答が全体の数に等しい、という理屈ですが、そんな理屈について考えるのは最初だけで、以後は掛け算が出てくると、棒暗記した九九の表から解答を引っ張り出してきて利用します。

 

つまり一種の条件反射で、いちいち第一段階の掛け算の理屈から考えていたら、解答を出すのにいくら時間があっても、足りはしません。

もうちょっと高度になって、数学の因数分解や幾何の定理、公理にしてもそうです。

考えていたら、とうてい規定の時間内に解答することはできませんから、条件反射的に解答が導き出せるよう、できるだけたくさんのパターンを記憶しておく必要があります。

条件反射的に解答を出す

英語となると、こんな例はもっとたくさん出てきます。

“He is coming up in the world.”

これを訳すとなると、「彼は世界の中で、やって来て上がった……」何のことやら、まるでわかりません。

この簡単な英文の本当の意味は、「彼は社会的な地位が段々高くなってきた」というようなことです。

 

”coming up in the world”という決まり文句の意味を知っていなければ、この英文を正確に訳すことは絶対にできないわけで、つまりこれも、一種の条件反射です。

もう君にもわかったでしょう?

入試問題に限らず、私たちが日頃、出会う問題とか出来事では、熟考してから解答を出す場合よりも、ほとんど考えずに条件反射的に解答を出す場合のほうが、ずっと大きなウエイトを占めているのです。

 

ですから入試問題を解くのに最も利口な方法は、条件反射的に解答できる問題は全て、考える過程を飛ばして答を出してしまい、残った時間を、条件反射では答えられない問題を熟考して解くことに当てるのです。

条件反射的に答えられる問題が多いほど余裕が出てきますし、それだけでも、充分に合格点に到達してしまいます。

入学試験もストレートで

私事で恐縮ですが、私は入学試験は、静岡高校に入る時、東大に入る時、東大の大学院
に入る時、の三つしか経験しておらず、いずれもストレートで合格しています。

 

高校の時は記憶していませんが、東大の入試では、全部の問題を解答した後、三度も読み返して解答を確認して、なお三十分も時間が余り、大学院の入試では、何と二時間も余ってしまい、叙心詆では他の受験生を動揺させるということで途中退席が許されていませんから、まさか鞄から本を引っ張り出して読書するわけにもいかず、えらく時間つぶしに閉口した記憶があります。

 

当時から私は、問題はできるだけ条件反射的に解いてしまい、考える時間は、可能な限り少なくして手抜きして楽をする、ということをモットーにしていましたから、(それだけ性格が怠け者だということですが)いつでも時間的には余裕があり、そのことからいつの間にか、
「自分は絶対に上がらない。上がって緊張して失敗することがない」 という自信を持てるようになっていました。

とにかくひたすら右脳を鍛えよう!

いささかまた、話の本筋からは脱線してしまいましたが、大学受験ということでは、多少は参考になったのではないでしょうか。

とにかく私が紹介した、速読法のためにオリジナルの参考書を作成する勉強法は、いささか手間暇を必要とします。

 

もう受験が目前に迫っているので、そんな手間暇を要することはやっていられない、とか、そんな七面倒くさいことはやりたくない、という人は、私の紹介した方法のポイントだけを取り入れれば良いのです。

これは、という受験問題集を選んで、まず最初に、できるだけキチンと解答を書き込んでしまいます。

 

そしてそれを速読法を駆使して、ひたすら何度も読み返し、ある頁を開いたら、その頁に印刷されていることが一瞬で脳裏に浮かんでくるくらいに〈条件反射〉を鍛え上げるのです。

そうしますと、試験と試験の合間は、短いところで十分、長いところで二十分だと思いますが、それだけの時間があれば試験の全範囲を、一度ならず、数度に渡って読み返して、本番中に該当箇所を脳裏に再現することが可能です。

実践教材とソフト教材でスピードアップ!

人間の大脳には〈忘却〉という始末に終えない弱点がありますが、試験の直前に全範囲を復習することが可能になれば、「あれは忘れないだろうか、これは忘れやしないだろうか……」と思い悩んで緊張し、かえってよけい忘れてしまって、肝心のことを思い出すことができない、などという悲惨なことがありません。

 

「自分は直前に全範囲を復習したんだから、絶対に合格点を取れる」という自信を持って試験に臨むことができるので、精神的にくゆとり〉が生まれ、まず、ほとんど上がりません。

上がらないと、緊張で問題の文意を読み違えて飛んでもない誤答をするとか、いくら読み返してもどんな解答を求めているのか設問の意図が呑込めない、などということがなくなり、全ては良い方法へ良い方向へと循環していきます。

 

実際の参考書で速読することと併せて、この本の末尾に付けられている速読法の実践教材によって速読のスピードをアップしてください。

また、川村式ジョイント速読法のコンピューター・ソフトを併せて求められた方は、コンピューターのディスプレイによる訓練を、ぜひ怠けずに行なうようにしてください。

フラッシュ効果による記憶の定着

コンピューターのディスプレイに表示される文字群は、紙に印刷された文字と異なり、光を伴って視野に飛び込んできますから、「フラッシュ効果」と言って強く脳裏に焼き付けられるのです。

 

このフラッシュ効果による記憶は、主として潜在意識の部分に蓄積されるので、自覚としては、本に印刷された文章を読むのと比較してそれほど強く記憶されたような印象がありませんが、試みに引き出してみると、驚くほどの分量が正確に引き出されてくることがわかっています。

 

ですから、受験勉強も、本として印刷された参考書を読むよりは、コンピューターのソフト化された参考書をディスプレイの画面で勉強するようにしたほうが、記憶の定着率としては高いのです。

私自身も、コンピューター・ソフト化した受験参考ソフトをいくつか開発するつもりでいますし、今後はどんどん、そういう方向に向かって受験勉強の方法が変革されていくのではないかと思います。

川村式速読法で判断力・応用カアップ

また、いささか脱線しましたので、速読法を活用した受験勉強の話に戻ることにしましょう。

 

とにかく、速読法を使った受験勉強は、これまでの左脳を活用した勉強法とはまるで違う勉強方法ですから、 「そんな、熟考して問題を解くことをしないで、条件反射的に問題を解くようなことをやって大学に合格したとして、いいんだろうか? はたしてそれから先の実際の役に立つんだろうか?」 と思い悩む人がいるのではないか、と思います。

 

それに対する回答ですが、 「大学の入試問題を熟考して解く習慣を身につけたとしても、その後の大学内の勉強でも、社会に出てからの実践面でも、役に立つような問題は、まずほとんど入試問題の中には存在していない。

それよりは、速読法によって右脳を鍛錬して、イザという時のとっさの判断力、応用力が働くようにしておいたほうがよい」 ということを申し上げておきます。

右脳のほうが創造力に優れている

こういうふうに書きますと、「何も考えずに、条件反射的に与えられた問題に対して解答を出してしまうことが、どうしてとっさの判断力、応用力が鍛えられることになるんだ? まるで逆じやないか」 と考える人が多いでしょう。

 

私たちは日頃の論理的な思考を、左脳主体の思考活動によって行なっていますから、どうしてもそう考えがちですが、左脳にはほとんど創造力が欠如しているのです。

 

左脳は、既に完成されている、定型化されたパターンの中からしか、答を引き出すことができません。

左脳は直列思考ですから、いくつかの発想を並行して考え出して一つのものにまとめ上げる、ということが、ひどく苦手なのです。

オリジナリティに富んだ何か独創的なもの、アイディア、デザイン、学問的な定理などは、全て右脳の飛躍的な活動によって生み出されてきます。

ケクレの有機化学の夢

例えば有機化学の基礎を作ったのは、ケクレというドイツの化学者でしたが、ケクレ以前の化学では、ナトリウムはたった一個の塩素原子としか結合できないのに(食塩になります)炭素は四個もの塩素原子と結合できる、その理由がなぜなのか、全く解明されていませんでした。

 

それを解明したのがケクレですが、その解明に到る過程を、少し物語ることにしましよ炭素の結合について、どうしても上手に説明することができず、考えあぐねていたケクレは、ある時、居眠りしていて妙な夢を見ました。

それは、自分がミクロの世界に入り込んで、原子が乱舞する様子を眺めている夢でした。

 

二個の原子が結び付いて一対になったり、離れたり、また、いくつもの原子が鎖のように連なったり……。

ケクレは、たくさんの原子が鎖のように長く連なっている光景に引きつけられました。

その、長く鎖状に連なっている原子は炭素で、更にその鎖から、他の原子が、まるで縁飾りのようにプラ下がっていました。

この奇妙な夢から、ケクレは有機化合物の分子構造に対する合理的でほとんどの化学反
応を矛盾なく説明できる仮説を思いつきました。

 

各原子は、それぞれ他の原子に結び付くことのできる「結合手」を持っています。

その結合手は、水素原子の場合ですと一本しかありませんから、二個以上の他の原子と
は結合できません。

 

しかし、酸素は二本の結合手を持っていますから、例えば水の分子のように、二個の水
素原子と結合することができます。

 

そして炭素は更に多く、四本の結合手を持っています。そこで、炭素は鎖のように長い化学構造を作ることが可能なわけで、メタン、エタン、プロパンといった具合いに、無数の炭素化合物ができていくのです。

 

こうして、ケクレによって見事な化学構造理論が解明されたので、十九世紀の化学者た
ちは、次々に数多くの有機化合物を発見していきました。

そして、やがて有機化合物は二つの系統に分類されました。

 

第一の系統は、今、右に構造式を書いたように炭素原子が直列に連なった化合物で、これには、アルコール、グリセリン、ロウなどが含まれており、油脂的な性質が強いところから、「脂肪族」と名付けられました。

第二の系統は、分子が脂肪族よりも多くの炭素を含んでいる物質群で、爆薬や様々な医薬品の原料になり、独特の芳香を持っているところから、「芳香族」と名付けられました。

脂肪族の有機化合物と芳香族の有機化合物には、極端に性質の違いがありました。

脂肪族の化合物は安定で他の物質と反応を起こしにくいのに、芳香族の化合物は起こし
やすい、芳香族の化合物は、どうやら六個の炭素原子を基本にしているらしい……。

 

同じ炭素を基本にした有機化合物でありながら、どうしてこれほど違いがあるのか、サ
ッパリわかりませんでした。

両系統の違いを合理的に説明できる仮説を考え出そう。と苦心している内に、ケクレはまた、妙な夢を見ました。

 

ギッシリと長く鎖状に連なった原子の群れが、ちょうど大勢の人が竜の細工物の下に入って道路を練り歩く、「竜の踊り」のように、クネクネとうねりながら踊っていました。

竜の細工物の本体が炭素原子で、下に見えている人々の手足が炭素の結合手です。

と、その内に竜の頭が尻尾のほうに回っていって、大口を開けてパクリと自分の尻尾を食わえてしまいました。

そして、尻尾を食わえて環状になったまま、グルグルと、まるでネズミ花火が回転するように踊り続けたのです。

 

そこでケクレは夢から醒め、炭素原子が環状に連なった六角形のベンゼン核の仮説-受験生の皆さんを苦しめる「亀の甲」の仮説を思いついたのです。

速読法は独創性・創造性を高める

このケクレは、幼年時代から科学好きであったのと同時に、非常に絵画が得意だったそうです。

そこで両親は、両方の得意分野を生かせるということで、ケクレに建築技師になるように勧めたのですが、ケクレは化学の道を選びました。

 

この、絵画が非常に得意だったということは、つまり、右脳が非常に発達していた、ということを意味しています。

右脳は様々な要素を、ほとんど理屈や理論の裏付けなしに、直感的に一つの物にまとめ上げる、ということをやります。

もちろん、理屈や理論が全く存在しないわけではなく、その人がそれまで長い間にわたって研究したり勉強してきたことが根本に存在していなければならないのですが、そういうデータは、無意識の部分、潜在意識の部分にしまい込まれてしまっているので、一瞬で一つの物、具体的な理論にまとめ上がった瞬間には、あたかも全く理論も理屈も存在していないように感じてしまうのです。

 

しかし、それまでの研究や学問の蓄積がない人には、こんな芸当が不可能なのは、当然のことです。

このように、それまでの研究の蓄積を右脳の一瞬の閃きによって見事に結晶させた、という例は他にもたくさんあります。

 

遺伝子の本体であるDNAの二重ラセン構造を思いついたワトソンとクリック、相対性理論を思いついたアインシュタイン、中間子理論を思いついた湯川秀樹、古くは万有引力を発見したニュートンなど、それにまつわる右脳を駆使したエピソードを列挙して述べていったら、際限がないほどです。

速読法は、単に本や書物を速く読める、勉強時間を圧縮できて手抜きができる、と言うだけではなく、独創性、創造性を高める上でも非常に効果がある、ということが理解していただけたでしょうか?

受験勉強に、実社会に必要とされる速読

受験勉強に限らず、実社会のビジネス面でも、近年、「右脳ビジネス」という言葉がちょっとしたブームになりましたが、そのブームの火つけ役になった品川嘉也氏の著書「右脳ビジネス」(講談社)から、ちょっと関連した箇所を引用してみましょう。

「創意工夫は、直観と閃きを必要とするが、それは右脳の仕事なのである。右脳は、イメージ、立体認識などを司っていて、言語・論理・計算などを扱う左脳との分業体制ができあがっている。頭を使う、というのは全て左右脳の協同作業である。

 

今日、ビジネスマンに求められる仕事は、商品の開発や新企画などの、創意である。か
つてのソロバンの名人やペン字の達人も、出番がなくなってしまった。字を書いたり、計
算をしたりするのは、左脳だけでもできたが、創意工夫は右脳なしには有り得ない。左右脳をフル回転させることが求められているのである。

 

右脳を鍛えておくことが、受験勉強だけでなく大学を出て実社会に進んでからもいかに
大切か、おぼろげながら呑込めたと思います。

コンピューターとロボットの発達によって、独創性を必要としない、パターン化された仕事からは、どんどん人間の出番がなくなってきています。

 

銀行の入出金業務(キャッシューサービス)、自動車工場の自動車の組立など、コンピュ
ーターとロボットの組み合せのほうが迅速で間違いが少なく、人件費も安くて済むからで
す。

さあ、君もぜひ、速読法の訓練で、将来に対する布石を作り上げてください。

 

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