大学受験の本番で上がらないために
終わりに、大学受験の本番で上がって失敗しないように、どうして人間は大事な時に上がり、上がると途方もない失敗をするのか、速読法に関連して生理学的に解明されたことから、入試で失敗しない方法を伝授しておきましょう。
人間は重要な場面に出会ったり大事な舞台に出ると、緊張してアガリ、そのアガリ方がひどいと、途方もないミスや失敗を犯してしまうのは、よく知られています。
しかし、いったいどういう要因関係で失敗するのか、ということは意外に知られていません。
知られていないために<カウンセリング>などという大変な遠回りをしないとアガリ症が直せない、それ以外の方法がない、と一般的に思われています。
しかしカウンセリングなどでは、自己暗示と訓練によって緊張しないように性格を変えていく、というような解決方法が提示されますが、これは一朝一夕に実行できるものでありません。
そこでアガリ症の人は、直せずに非常な苦痛を強いられるわけです。
ところが、アガると失敗するメカニズムを知ってしまえば、もっと単純な解決方法があるのです。
そこでまず、アガると失敗するメカニズムを解説しましょう。
アガると失敗するメカニズム
人間は重要な場面では、どうしても、〈失敗したくない〉〈うまくやりたい〉という意識が働いて、ひどく緊張します。
緊張、即ち精神的な圧力が加わった場合、人間の体を神経とかホルモン分泌の面から見ますと、まず、自律神経のうち、交感神経が活発化します。
そうすると、それに伴って次のような反応が起こります。
◆涙腺が活発化し、涙の分泌が促進される。
◆瞳孔が拡張する。
◆呼吸が速く浅くなる。
◆心臓の鼓動が速くなり、血管が収縮し、血圧が上昇する。
◆胃腸の働きが抑制され、消化液の分泌が悪くなる。
◆膀胱や肛門の括約筋が収縮する。
◆アドレナリンが分泌される。
この最後の「アドレナリンが分泌される」ということが、極めて重要な意味を持ってい
ます。
アドレナリンの反応
生物の授業で教わったはずですが、忘れてしまった人のために簡単に言いますと、アドレナリンはまず、肝臓に貯蔵されているグリコーゲンを分解してプドウ糖に変え、血液中の糖の量、血糖量を上昇させます。
それだけでなく、血液中のコレステロールや脂肪酸の莖も増加させます。これはいったいどういう反応かと言いますと、例えば原始人が狩りに出ていて、猛獣や強敵に遭遇した時に見せる反応なわけです。
そんな状況では、脱兎の如く逃げ出すか、それともその場に踏み留まって戦うか、どちらの道を選択するにしても、手足の筋肉を極限まで使うわけで、大量のエネルギーを消費しなければなりません。
そこで体は、自動車で言えばガソリンに相当するエネルギー源を、エンジンである手足
の筋肉に送り込むべく、用意します。血液中に分泌されたブドウ糖、コレステロール、脂肪酸、いずれも、効率よく消費されるエネルギー源です。
また、血管が緇く収縮するのは、敵との戦闘で怪我をした場合に備え、出血量を可能な
限り抑えるためです。
試験の緊張時、大量の血液が左半球へ
ところが人間は、仕事や試験で緊張した場合も、この、原始時代にジャングルや草原で猛獣や強敵に遭遇した場合と、全く同じ反応を示してしまうのです。
文明は急速に進歩しましたが、人間の体を司る神経や内分泌機能は、ほとんど原始時代の状態のまま留まっている、ということになります。
さて、話を試験のことに限定しますと、試験で問題を解こうとしたときに最も活動するのは、これまでに述べてきたように大脳の左半球で、ここに多量の血液が流れ込んで行きます。
活動するということは、エネルギー源を燃やして二酸化炭素と水に分解する、ということですが、用意されたエネルギー源は、全身の筋肉をフルに使って敵と死闘を展開するだけの量です。
つまり、大脳の思考活動のためには多すぎるのです。そこで、せっかく用意されたエネルギー源は、ほとんど使われないことになります。
そうすると、せっかく用意されたそのエネルギー源は、いったいどういうことになるのでしょう?
毛細血管の「目詰まり現象」
緊張度の大きな人は、アドレナリンの分泌が持続していますから、肝臓に再吸収されてグリコーゲンに合成され、蓄積されるということがなくて使われないまま血液の中に入って体中を循環し続けます。
プドウ糖、コレステロール、脂肪酸が含まれた血液は、濃厚なエネルギー源を含んでいるわけですから、当然、平常時よりもドロリとして、粘性に富んでいます。
また、心臓は鼓動を速めて後から後から血液を送り出すわけですが、その血液は濃厚で、送り込まれた先の血管は交感神経の命令で収縮して、細くなっています。
いつもより細いパイプに、いつもより濃厚で粘性抵抗の大きな液体を、いつも以上の速度でどんどん送り込み続ける、という状況を頭の中で想定してみてください。
例えば、いつも水を通しているパイプに、水飴や蜂蜜を通す、などという状況を想定するわけです。
さあ、どんなことが起きますか?
粘性抵抗が大きいので、目詰まり状態が起きて、液体が思うように先へ流れていかなくなる、ということは、誰にでも容易に想像がつくでしょう。
精神の緊張-ストレスが持続していると、末端の緇い血管-毛細血管で、まさにこういう「目詰まり現象」が起きてしまうのです。
「目詰まり現象」による酸欠状態
台所でロートを使って送り込むような作業でしたら、粘性の高い液体はロートから溢れてしまいますから、そこでいったん作業を中断して液が流れていくのを待てば良いわけです。
しかし、体の場合には、まさか心臓を停止させて目詰まり状態が回復するのを待つ、というわけにはいきません。
目詰まりしていようがいまいが、心臓はひたすらどんどん血液を送り込み続け、末端の毛細血管での目詰まり状態は進行します。
また、大脳は人体の中でも毛細血管が発達している部位なので、この目詰まり現象が特に発生しやすいのです。
この毛細血管が濃厚な血液によって目詰まり現象を起こすと、そこから先へ、酸素を含んだ新鮮な血液が流れていかなくなり、酸欠状態が発生します。
酸欠状態に陥っても、そうそう簡単に試験を放棄するわけにはいきませんから、大脳は必死で問題を解く仕事を続けます。
その、考えるためのエネルギーは、いったいどこからどうやって補充されるのでしょうか?
ピルビン酸から「クエン酸回路」への反応差
これも生物の授業で習ったはずですが、「解糖系」という酸素を必要としない反応経路によってプドウ糖が分解され、エネルギーが取り出されるのです。
ブドウ糖は、酸素のある状態では酸化分解されてピルビン酸になり、細胞の中のミトコンドリアという器官で「クエン酸回路」に入って、最終的に二酸化炭素と水に分解され、エネルギーを放出します。
それを要約して化学反応式で表すと、次のようになります。ところが、酸欠状態に陥りますと、プドウ糖の分解産物のピルビン酸は、次の分解過程のクエン酸回路に入ることができず、まだ分解されていないブドウ糖から水素を受け取って還元され、乳酸になってしまいます。
その場合には、プドウ糖の一分子が完全に分解されると六百八十ハキローカロリーのエネルギーを発生させるのに対して、わずか四十七キローカロリーのエネルギーしか取り出すことができません。
有酸素状態の七%弱と、実に非能率的なエネルギー取り出し反応です。
これは、乳酸菌の行なう乳酸発酵と全く同じで、高等生物である人間の体内にこういう反応過程が見られるのは、地球に酸素が存在しなかった当時に発生した原始生物から進化してきた証拠の一つである、とも言われています。
乳酸には。差し引きまだ六百四十キローカロリー以上の熱量が残っていますから、口から取り入れればエネルギー源にもなるわけです。
緊張時の乳酸がミスを犯す犯人
まあ、それはこの際、どうでも良いことですから、話を元に戻しましょう。
どう考えても、非能率的な解糖反応よりも有酸素反応のほうが良いのですが、血液の流れが滞って酸素が供給されてこないのですから、末端組織の細胞としては、この低能率の反応でエネルギーを獲得するしかありません。
そうすると、分解産物の乳酸が加速度的に蓄積していくことは、誰にでも想像がつくでしょう。
つまり緊張した状態で試験を受けると。リラックスした状態の数倍から十数倍という(イ・ペースで大脳が疲労してしまい、したがって、とんでもないミスを犯す確率もグーンと高くなる、ということなのです。
アガリ症の人には酸素摂取効率の良い呼吸法が決め手
動物が激しい運動をすると、筋肉内で先に述べた解糖反応が起こって一時的な酸素不足のために乳酸が分解産物として残ることは、必ず生物の教科書に書かれています。
そして、教科書では、その後で体を休めると、新鮮な血液が流れ込んで酸素が供給され、乳酸が分解されるように書かれています。
これを大脳の場合にも応用してやれば、つまり酸素を意識的に供給してやれば良いのです。
アガった時には深呼吸をすると気持ちが落ち着く、リラックスできる、とよく言われますが、これは血液中の酸素量を増やして、大脳の毛細血管の酸欠状態を一刻も速く解消しよう、という本能の現れなわけです。
ですから、単に深呼吸するだけでなく、酸素摂取効率の良い呼吸法をすると、もっと大きな効果が上がります。
具体的には、肺活量を計測する時のような、肺の底を空っぽにして二酸化炭素を残らず絞り出してしまうような呼吸を数回、連続して行なうと効具的です。
空にした分だけ、余計に新鮮な空気が流れ込んで来ますから、気分がスーツと楽になっ
て、頭が回転し始めます。
試験前の準備
それから、アガり症の人は、本番の試験の始まる何時間も前から緊張していて、本番に突入してから大脳が酸欠状態に陥るのではなく、始まった時には既に大脳は重症の酸欠状
態に陥った後だ、という可能性が高いのです。
ですから、試験前にこの酸欠状態を解除してやらなければなりません。
本番の試験中では、せいぜい深呼吸ぐらいしかやれませんが、試験前ならば、かなり色々なことができます。
まず、酸欠状態を引き起こす根本原因である血液の粘性を引き下げることです。
アガり症の人に、いくら「緊張するな」と言っても無理な注文ですから、血液中のエネルギー源を消費してしまうのです。
そうすれば、血液の粘性が下がり、毛細血管の通りが良くなって、大脳は酸欠状態に陥りません。
ジャンプ運動でリラックス
例えば、その場で縄を持たないで、縄跳びに類似した連続ジャンプ運動をやります。
もちろん運動ですから、疲労素の乳酸が筋肉中に蓄積してきますが、それは膝から下ですから、試験で使う大脳には全く影響かありません。
それから、できるだけ肩や首から力を抜いて、プランプランの状態でジャンプするようにすると、一種のマッサージ効果で肩や首の血行が良くなり、更に大脳が回転し始めます。
緊張した状態でも、こういったことをやれば、大脳に充分な酸素が供給されていますから、問題をいくら読んでも出題意図が理解できない、文意を読み違えて途方もない見当違いのミスを犯してしまう、ということが少なくなります。
それから、なぜかジャンプを続けている内に気分がほぐれて、リラックスできてきますが、私の考えでは、精神が緊張したことによって交感神経が刺激されて起きてくる様々な現象がありますが、そこ結果つぱ’つを修三してやれば、原医こぱうも修三できる、、こ’7てことなのです。
カウンセリングでは、とにかく原因を究明して原因から直そうと考えるために、どうしても効果が上がるまでに大変な時問を必要とするのです。
受験生に喫煙は「愚の骨頂」
イライラしてくると煙草が欲しくなる、煙草を一服すると気分が落ち着く、ということで、受験生の中には未成年にもかかわらず、喫煙の習慣を持っている人もいるようですが、これは「愚の骨頂」で、自分で自分の首を絞めるようなものです。
なぜ煙草を喫いたくなるのかというと、煙草を喫う時には、それまでより深く大きな呼吸をします。
つまり、酸欠状態に陥った脳細胞が酸素を求めて、本能的に交感神経の働きを弱めよう
としたのです。
ところが、それを自覚できないので、喫煙習慣を身につけた人は、煙草を喫いたくなってイライラしてくると煙草が欲しくなる、煙草を一服すると気分が落ち着く、ということで、受験生の中には未成年にもかかわらず、喫煙の習慣を持っている人もいるようですが、これは「愚の骨頂」で、自分で自分の首を絞めるようなものです。
しかし、煙草の煙の中には、微量ながら一酸化炭素が含まれています。
一酸化炭素は酸素の約二百五十倍も強いヘモグロビンとの結合力を持ち、呼吸する空気の中に一酸化炭素が含まれていると、その分だけ血液の酸素運搬能力を低下させてしまいます。
ただでさえ受験の緊張で首から上が酸欠状態に陥りかけているのに、煙草の煙が生み出す一酸化炭素で酸欠状態に拍車を駆けるようなことをやっては、本番の試験では、いよいよ頭が働かなくなって、解ける問題も解けなくなってしまう、文意のひどい読み違えをやる、といった可能性があります。
私が、自分で自分の首を絞める、と書いたのは、そういうことです。
煙草は、その瞬間だけは大きく息を吸い込みますから、確かに一時的に気分がスッキリはしますが、脳細胞の酸欠状態は、更に加速されることになります。
そして、脳は酸素を求めて無意識に深呼吸しようとし、意識はそれを喫煙願望と錯覚して次の煙草に手を伸ばす、という悪循環に陥ります。
入試の前には煙草を喫わないように、そして喫煙している人を見かけたら、流れて来る煙で脳細胞を酸欠にさせられる恐れがありますから、できるだけ近寄らないようにしましょう。
速読で志望大学への合格を!
簡略に書きましたが、入学試験で上がらないためには、生理学的に体の反応を分析して、それに対処すれば良い、ということが理解できたと思います。
さて、その他にも、生理学的分析による受験ノイローゼに取りつかれない方法、大学入学後に五月病にかからない方法、とあり、順次それらについて述べていくと、それだけで充分に一冊の本になってしまいます。
これは速読法の本であって、そういう目的の本ではありませんから、そのためには、筆を改めて発表することにしたいと思います。
これまでに類書のないユニークな受験術の本になるはずですから期待していてください。
それでは、この本を手にされた方が全員、志望の大学に無事に合格されることをお祈りして、筆を置くことにします。
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